答えの出ない問いと向き合い続ける覚悟

INTERVIEW
もみじ保育園 園長代理  林祐三子

もみじ保育園は『乳児は育児担当制・幼児は縦割り保育』を実践しています。
縦割り保育は、今でこそ耳にする機会も増えましたが、もみじ保育園が導入した2000年当時はまだ一般的ではなく、園内に実践経験者もいない状態でした。

このページでは、もみじ保育園のあゆみのご紹介を兼ね、
『乳児は育児担当制・幼児は縦割り保育』を採択・実践し続けた背景にある想いを
園の運営責任者・林祐三子園長代理の言葉で記しました。 

子ども、保護者、職員、皆が彼女のことを親しみを込めて「ゆみこさん」と呼んでいます。
ゆみこさんが保育者として、働く女性として、感じたこと考えてきたこと、
そして、職員とともに取り組んできたことが、いまのもみじ保育園を創っています。

等身大のもみじ保育園を、支えてくださるすべての方に感謝を込めて。

***

父・創業園長の急逝、予期せぬスタート

もみじ保育園は1979年、私の父が創立しました。当時私は中学生でした。そして大学卒業後は会社員となり、園の運営には関わることなく過ごしていました。ところが創立から14年たった1993年、父が急逝。そこから母と私が園を引き継ぐことになりました。突然のことに、何の経験もない私は、どうしていいのか分からず、ただただ呆然とする日々。でも毎日園児は登園する、園を放り出すことはできない…その一心でした。

その後の3年間、私自身まったく記憶がありません。父の死を悲しむ余裕はなく、園の運営だけに心血を注いだ数年でした。

時代の変化と保育の転機

 今までの保育が通用しない子どもたちの変化

園を引き継ぎ7年が経った2000年、職員の中から保育を見直そうという声が上がりました。社会環境の変化とともに、子どもたちも変わってきている――。その変化を現場の職員が肌で感じ、「今までの保育じゃ通用しなくなってきたよね」と。これが保育を見直すきっかけとなりました。これまでやってきたことを変えるのは大変なこと。変化の必要性に気づくだけでも思うだけでもなく、具体的に実行に移したわけですから。あの時先陣を切ってくれた職員たちの行動力を、今でも誇りに思っています。

 子どもたちが自分らしく生きていけるよう

その時に、『乳児の育児担当制』『幼児の縦割り保育』を取り入れました。新しい試みに対し、職員も含め保護者の方などすべての人の理解は得られたわけではなく、実際にはとまどいや反対の声もありました。

だけど、やめなかった。なぜなら私たちは、子どもが“その子らしく生きていける力”を育みたいと一番に考えていたからです。縦割り保育が絶対にいいと思っているのではなく、子どもたちの何を育てたいかを考えたとき、一つの手段として選んだのが縦割り保育でした。その子らしく生きるためにと考えたとき、それは自分だけが自分らしければいいということではありません。他の子もそれぞれが自分らしく生きていけるように、それが私たちの願いなんです。

縦割り保育は異年齢なので、いろんな子が一緒です。幼少期の1歳差はすごく大きい。“自分と違う人”ということがとても分かりやすい。違いを責めるのではなく、違いを認め合って、その中で自分も自分を表現する。他の人も受け入れる。それがごく自然に子どもたちの心に根付いていければと思っています。

一緒に生活することで感じる家族に似た思い

縦割り保育で変わったことの一つ、それはこれまでに増して卒園児がよく園にあそびに来るようになったことです。

以前、やんちゃで目が離せない年少さんがいて、年長の女の子がずっとその子のお世話(サポート)をしてくれていました。すると卒園後も女の子は、「大丈夫かなあ?大丈夫かなあ?」と。「その子のことをずっと心配してるんですよー」とほほ笑ましそうにお母さんが話してくれました。お母さんと一緒に園に来て、久しぶりに在園児と顔を合わせたときはお互いとってもうれしそうでした。

寝食を共にし、一緒に生活する人の存在はとても大きいんだと実感しました。卒園児は弟、妹を想うように、在園児はお兄さん、お姉さんを想うように、意識せずとも大切だと感じる、家族に似た気持ちが心の中で育っているのかもしれません。

保育への迷いと疑問、学びなおしの決意

 経験則だけで保育をすることの恐さ

新しい保育の形がスタートした後も、昔の保育に戻そう、年齢別に戻そうという声はありました。同時に、異年齢に前向きに取り組む職員からも、その中身に関してさまざまな意見が出されました。大きな変革なので、みんなが試行錯誤。それ自体は大切な過程。ただ、“自身の経験則を根拠にした保育の形”というのが、それぞれにあり、その違いゆえに議論が平行線になってしまうことも多かったように思います。
当時の職員たちに比べて、保育現場での経験値が低い私。そうするうちに、保育への迷い、自信のなさから全てが危うくなり、私自身が自己肯定感ゼロになってしまいました。私は今まで何をしてきたんだろう、正しかったんだろうか、この保育で良かったんだろうか…暗い穴に落ちたまま、その中でただただもがき続けるだけ。このままではだめだと感じました。自分自身がなぜこの保育をしているのかをちゃんと土台から考えなければいけない。経験則だけでは良い保育とはいえない、ちゃんと言葉で説明できる、論理だった根拠がないから揺らいでいたんだと気づきました。そこで2007年、友人の助言を得て大学院で学びなおすことを決めました。 

学びの中で得た自信と確信

大学院に通い、先生との対話や研究を重ねる中で分かったこと。それは、子どもたちにとって大事なのは、自分で切り拓いていける力(主体的アプローチ)と人と関わる力(他者との共感・協力)でした。それらをもみじ保育園の理念「一人ひとりを大切に」と照らし合わせたとき、大丈夫だと確信することができました。私たちが目指すものは間違っていなかった。ゆらゆらとしていた頼りない線が、一本の硬い軸へと変わりました。

軸として揺らがないもの、自由に創造するもの

ただ、保育のやり方はいくらでもあるし、やり方はこれからも考え続けなければいけない、でも園で大事にすべきことは、これで合っている。その確認ができたことは私にとってすごく大きなことでした。自分が持ち続けてきた思い、それが理論と矛盾しないことの確信。保護者の方に対してもよりしっかりお伝えできるし、ご質問にも自信を持って説明ができるようになりました。

保育のやり方、そこは決まってなくていい、創っていけばいい。大切なのは、何のためにそうするのか。子どもの何を育みたいと思っているか、そこさえしっかりしていれば、あとは自由でいい。子どもも一人ひとり、職員、大人も一人ひとり、みんな違っていいから、自分のやりたいことをやってもらいたいと思っています。思いの部分が共有できていれば、あとはそれぞれの得意を生かして、自由な保育をみんなで創造したい。その方がきっとみんなが楽しく豊かなはずです。

 理論と実践の繰り返しが未来につながる

学生の延長線上ではなく、社会人になってから大学院に通えたことも、私にとってすごく意味のあることでした。何も知らない学生時代は、教育学の授業を受けてもただ「ふーん」と、少し他人事のように感じていたところもありました。ところが学生時代から20年を経た私は、20年間の仕事のこと、考えつづけてきた保育のこと、それまでの自分の人生のこと、すべてが自然と理論に結びつきました。

理論と実践、どちらかが大事なのではく、大事なのは理論と実践のサンドイッチ。現場だけ、研究だけではなく、やっぱり二つがつながらないと意味がありません。「研究のための研究ではなく、現場を良くするための研究。その両者をつなぐのがあなたの役割ですよ。」教授からいただいたこの言葉は、いつも私を鼓舞してくれます。

新しい出会い、新しい気付き

大学院での学び直しは、結果的に、私に「軸」を立ててくれました。
そしてもう一つ。大学院で手に入れたかけがえないもの、それは「仲間」です。

私と同じように社会人として院に通う多くの人たちに共通していたのは、「これからは人のために何かをしたい」という思いでした。同世代の仲間は、仕事や子育をする中でさまざまな経験をし、多くのことを感じ大学院へと来た。今までは自分のためにやってきたけれど、今度は社会のため、次の世代のために何かをしなければいけない、そのために学びたいと。

当時の私は必死すぎて、そんな崇高な志をもって通っていたわけではないけれど、私にとってもちょうど人生が“自分自分”から、自分以外の違う方向へと向かう時期だったんだと思います。自分に与えられた役目を果たすこと、社会の役に立つことが今後の人生の支えになる。それに仲間たちの姿勢や、教授の言葉が気付かせてくれました。

そして今、すべてを受け入れ目指すところへ

選択肢が増え、仲間が増え、可能性が広がる

園の運営と学業両立の3年間、その渦中はなんとも大変で。文字通り泣きながらだった時もありました。でもそのたびに、周りの人たちが支えてくれました。職員や保護者の皆さん、大学院の先生・仲間…おかげでなんとか修了できました。
 

恩返しの意味でも、学んだことを現場に返す、これは常に意識していることです。しかし、実際にはなかなか簡単にはいかないことも。これだけのスピードで社会が変化していくわけですし、日常的に新しい課題にぶつかっています。学び直したからといって、完全に啓けたわけでは、もちろんないんですと、正直にお話ししておきます(笑)。それでも、「諦める」=「明らかに見極める」という感覚は手に入れましたね。落ち込んだり、焦ったりしてもしょうがない。ありのままを受け入れて、今できることを積み重ねていこうと素直に思えるようになりました。 

それに、何か課題や問題にぶつかったとき、視点を変える方法というか、考える角度は格段に広がりました。「じゃあ、こんなふうにしてみようか」「こういう方法もあるよね」といった感じで、選択肢も増え、柔軟に対応できるようになりました。

そして何より、大学院で得た人脈は本当にありがたく、さまざまな場面で助けられています。軸を得て目指すところが定まり、それを周りに伝えられるようになったことで、協力してくれる仲間が増え、回り回って、子どもたちのためにできることがいまも増え続けている。これが本当に嬉しいです。

これからのもみじ保育園、そして私

 必要とされる存在である限り

気がつけば、もみじ保育園を引き継いでから四半世紀以上の時が流れました。
あの日、父の葬儀をしている間にも子どもたちは登園してきて、保育園は動いていました。そんなのやめられない。やるしかない。そう決心こそしましたが、保育への高い志を持って事業承継をしスタートしたわけではない私。こんな私がやっていていいのだろうかと、罪悪感のようなものを感じる時もあるんです。
同世代が次のステージのことを考える齢になり「これからは自分の好きなことをやって生きる」という声も聞こえる様になってきました。それでも、私の答えは始めた当初と同じ。神様のご計画でこの役目を与えられたので、それをやるのみ、なんです。

穴に落ちるたび助け出してくれたのはいつも周りの誰か。誰かが必ず引っ張り出してくれたから今がある。当たり前は当たり前じゃなく、自分が分かる範囲も、自分には分からない範囲も、どれだけの人に支えられているかをちゃんと感じられるようになりました。
だから私には“ラッキー!”はないんです。“ありがたい!”“ありがとう!”という思いだけ。職員に支えられ、保護者の方に支えられ、外部からも園を応援してくださる方々に支えられ、皆さんの思いを感じられるのは、私にとってすごく幸せなことです。

社会の役に立つ仕事ができているのかなと考えるとがんばる力が湧いてきます。必要とされることが自分を支えている。いつのまにか園は、私にとって人生そのものでした。だからこそ自分が本当にやりがいをもって続けていきたいと思っています。

答えの出ない問いと向き合い続ける覚悟

ここ数年、特に時代の変化が激しくなり、今までの経験だけでは乗り越えられないことが増えました。不確かで曖昧で、分からないこと、先の見えないことに誰もが直面する時代。
これからも時代は変わり、子どもたちも変わっていきます。

時代の流れとともに、私自身が変わらないといけないところ、変わってはいけないところ、その見極めはますます難しくなるはず。保育の場においても、何が正しく、何が間違いなのか、はっきりとした答えが出ることはありません。けれど、答えの出ないことをずっと考え続け、自分に問いかけ向き合いながら、前に進んでいくしかない。それが私の役割であり、子どもたちの未来を育む力になると信じています。

自分で人生を切り拓ける力 を子どもたちに

もみじ保育園 園長代理 林祐三子

もみじ保育園 基本情報

法人名

社会福祉法人 今宮福祉会(しゃかいふくしほうじん いまみやふくしかい)

設立年月日

1980年4月1日

施設形態

私立認可保育園

保育園名称

もみじ保育園(もみじほいくえん)

園長

林 陽子 

住所

大阪府箕面市今宮2丁目4−25

アクセス

阪急千里線 「北千里駅」阪急バス 粟生団地線「今宮」停留所 下車0分 ※北千里から約5分

北大阪急行電鉄 「千里中央駅」阪急バス 粟生団地線「今宮」停留所 下車0分 ※千里中央からは約15分

専用駐車場があります

電話

072-729-7371

園児数

73名 ※2023年6月時点

保育時間

7時00分~19時00分 (18時30分~は延長保育)

休園日

日曜日、祝日、年末年始

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